施設紹介

独立行政法人 農業技術研究機構
近畿中国四国農業研究センター 畜産草地部

小島孝敏(育種繁殖研究室)

JRD2001年10月号(Vol. 47, No. 5)掲載




■ はじめに

 独立行政法人農業技術研究機構近畿中国四国農業研究センター畜産草地部は、和牛に関する試験研究推進のため農林省畜産試験場中国支場として昭和12年2月、島根県大田市に設置されました。その後、昭和25年4月に農林水産省中国四国農業試験場畜産部に、27年8月に中国農業試験場畜産部に改組され、平成13年4月、ほぼそのままの形で独立行政法人の組織に移行しました。近畿中国四国農業研究センターは旧農林水産省中国農業試験場と四国農業試験場が合併した研究所で、本部(広島県福山市)、四国研究センター(香川県善通寺市)、野菜部(京都府綾部市)、畜産草地部(島根県大田市)から構成されています。畜産草地部は育種繁殖研究室、栄養生理研究室、産肉利用研究室、草地飼料作物研究室の4研究室体制で、大田総務分室、業務第4科がこれに加わり、その他に総合研究部の総合研究第5チーム、地域基盤研究部の鳥獣害研究室が駐在して研究を行っています。職員総数は56名(うち研究職20名、駐在研究室含む)で、200 haの敷地(圃場、採草地、放牧地あわせて約78 haと山林110 ha)内に7牛舎、食肉生産研究施設(屠場)の他、繁殖工学実験棟、消化試験室、食肉品質実験棟、牧草生理生態実験温室などの実験施設群が設置されています。平成13年8月17日現在、黒毛和種156頭、高知系褐毛和種15頭、ホルスタイン種3頭、ニホンイノシシ11頭(鳥獣害研究用)を飼養して各分野の研究を推進しています。


■ 畜産草地部の研究活動

 当場は「肉用牛研究発祥土地」という石碑があるとおり、和牛(黒毛和種)専門の研究機関として60有余年、さまざまな視点から当該地域に対応した肉用牛研究を実施してきました。現在では各研究室が以下のような課題を設計、実施しています。肉用牛の遺伝的能力の評価法及び繁殖機能制御技術の開発(育種繁殖研究室)、シバ等の地域資源の飼料特性の解明及び食品工業副産物の有効利用技術の開発(栄養生理研究室)、肉用牛の育成・肥育における遺伝的能力・飼料成分等の影響の解明及び肥育技術の開発(産肉利用研究室)、シバ型草地等の植生構造及び野生ヒエ類の自然下種繁殖特性の解明(草地飼料作物研究室)、肉用牛の放牧による遊休農用地の利用技術の開発(総合研究第5チーム)、イノシシ等野生動物の行動及び生態の解明と被害防除に関する技術開発(鳥獣害研究室)。平成11年4月からは、研究室長3名が神戸大学大学院自然科学研究科に設置された連携講座の客員教官として、動物生殖遺伝、動物行動生理、栄養代謝生理の各分野について、大学院学生への講義及び研究指導を行っています。次に最近の育種繁殖に関する主な研究課題と成果について紹介します。


■ 現在の育種繁殖研究

 育種繁殖研究室では現在、特に遺伝子の視点から育種分野、繁殖分野の両面の研究を実施しています。

 育種関連では、マイクロサテライトDNA(MS)マーカーを用いて黒毛和種個体の遺伝的能力をより正確に推定できる方法の開発を目的として研究を進めています。本研究では実際に当場の黒毛和種雌集団に、増体あるいは脂肪交雑に優れた種雄牛を交配させて作出した後代牛群について、29常染色体上のMSマーカー約250種類のタイピングを行い、各個体の持つ遺伝情報を調査しています。さらにこれら個体の各種形質データとMS間で連鎖解析を行い、体型及び増体形質等に関与する量的形質遺伝子座(QTL)領域の解明を進めています。これまでの連鎖解析によって、体型や増体形質に関与する染色体とその大まかな領域が推定され、現在そのQTLの特定に力を注いでいます。

 繁殖関連では、ウシにおける着床、妊娠維持の機序解明を目的として、妊娠子宮内膜(子宮小丘部(反芻動物に特異的な母体胎盤となる部位)と子宮小丘間部)や胚・胎子胎盤で産生され、妊娠に重要な機能を持つと考えられるサイトカイン(細胞間の情報伝達において局所的仲介物質として作用する、細胞外シグナルタンパクまたはペプチド)等の物質群の遺伝子発現について解析を行っています。現在、白血病抑制因子(LIF)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)等のサイトカインの妊娠子宮における遺伝子発現量について、TaqManプローブを用いたリアルタイムPCRにより詳細に検討しており、同時にこれらの発現部位についてもin situ PCR法等で調べています。

 さらに妊娠日齢ごとの母体胎盤、胎子胎盤のcDNAライブラリーを作製し、その発現遺伝子群の解析から、新規の妊娠関連物質の単離・同定を行っています。その中から単離した抗ウイルスタンパク質Mxの遺伝子は特に妊娠初期に高発現であり、Mxは妊娠初期に胚の栄養膜細胞が分泌するインターフェロン・タウにより誘導発現し、妊娠成立時に何らかの機能を有する可能性が示唆されました。

 また、核移植胚を用いた胚移植において低受胎率、流死産の増加、過大子出産等の問題が多い一因として、ゲノムインプリンティング(哺乳類の遺伝子の一部が配偶子形成過程で親の性別にしたがってマークづけされ、その結果一方の親に由来する対立遺伝子のみ発現する現象)の異常が考えられており、その遺伝子修飾を受けるインシュリン様成長因子II(IGF-II)の胚における遺伝子発現についても検討しています。


■ おわりに

 以上のように、当場では当該地域における和牛を対象としたさまざまな試験研究に取り組んでいます。これらは多くの関係者の協力、特に優秀な業務科職員の支援により進められており、この場をお借りして深くお礼申し上げます。



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